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Aくんのプロジェクトで考えたこと。


今、富士建設では徐々に「あなたのところに工事をしてほしい!」というケースが増えていて、私自身のお友だちや、お世話になったかたからご紹介いただいた現場だけでも、現在5件くらいの案件を同時に進めさせていただいています。ありがとうございます!

でも、そんな嬉しい状況の反面で、実は先日、せっかく名指しで相談に来てくれたのに、ご期待に添えず、悲しい終わり方を迎えてしまったプロジェクトもありました。

それは、「これまで他社の設計施工だったけれど、良さそうな設計事務所さんを見つけたから、そこと真鍋さんのところのセットでお仕事をしてほしい」というきっかけからお話しがきたもの。(仮にお客さまのお名前をAくんとします。)

結果的に、Aくんの意向に添うことができず、一緒に夢を実現することはできなかったのですが、その時、本当にいろいろ考えました。

工務店の設計施工にも、もちろん利点や長所があります。(うちだって、設計施工の案件はたくさんありますし。)
でも、想像を上回るデザインや使い勝手、また風景やまち、文化、社会、人生への影響といったいわばハードのもつ公共性ともいうべきものを考えることにかけては、やはり設計事務所のプロとしての力には、及ばないと思うのです。

ただ、今回の案件では、それを重視するあまりに、Aくんの基本的な要望に十分に寄り添えなかったのでは?という、忸怩たる後悔が残りました。

なぜ、Aくんはその設計事務所さんにお仕事をお願いしたいと思ったのか。
なぜ、結果的にそれをあきらめたのか。
本当に、『できない』ことだったのか。もっと工夫の余地があったんじゃないのか。
もっと設計者から出てくるプランへの期待や信頼を高めてあげる方法を考えるべきだったんじゃないか。
(設計者のセンスや考え方を心から信じていないと、スタート切るのむずかしいと思うので)

…迷って悩んで、ちょうどそのとき読んでいた建築雑誌に掲載されていた、プレゼンのセミナーへ思い切って参加することにし、東京へ行ってきました。


竹中工務店の設計部、シーラカンス、日建設計。
日本の建築界を代表する設計者(それぞれ立ち位置は違いますが)ばかりの、ものすごいラインナップです。

それだけに、正直、自分の設計の正しさ、素晴らしさを強調した、「押しが強いプレゼンなんじゃないか?」と思っていました。

ところが…。

見えてきたのは、徹底的なお客さまの要望事項への寄り添いかたでした。

竹中工務店は、お客さまの「言いたいこと、建物を通じて実現したいこと」(もちろん不安や疑問も)をトコトン可視化。時にはそれをプロジェクト関係者全体に伝える役目も担います。

シーラカンスは、ともに考える空気をつくることで、マイワールド(笑)ながらも、そこへ自然に誘っていく丁寧なストーリーをもっています。マイワールドを包む、空気感をつたえる方法も知っています。

そして日建設計は、クライアントのバリューを根底に、そこへ設計者自身の夢・日建設計という組織の使命・社会的意義をしっかりと載せ、想像している建築が本当に“想像通り”に実現するかをどこまでも追い求めます。

つまり、…どのプレゼンも「お客さまの要望」を、想像以上に、徹底的に基礎においていたんです。(理念だけじゃなく、コストも工期も)

その上で、そこに自分なりの自己実現が、しっかりと表現されている。(だからこそ感動できる。)

現実的に、理論的に冷静に突き詰めていくことで、建物がリアリティをもって浮かび上がってくる。
そしてそれがむしろ、ロマンチックに聞こえる。

鳥肌が立つような時間でした。

あんな日本を代表する一流のひとさえも、お客さまの要望と自分たちの表現とを絡ませ、昇華させるために、ここまでの努力をしている。だからこそ、魅了される。
それは、どんな与件のうえであっても、必ず魅了してみせる、という自信のようなものがあるからかもしれない。

「よい建築を作るためには仕方ない」という風に、もしかすると、わたしは甘えていなかったかな

ありとあらゆる可能性を俎上に載せられるよう、もっと引出しをふやそう。
そして、そうありたい、ということを、設計者や専門業者(施工時に実際に携わる職人さんたち)にも、共有してもらえるような会社になろう。思いっきり諦めが悪い会社になろう。

…そんなことを考えました。

で、考えたのが、このイラストです。
お客さまの要望こそが、スタート。それは間違いない。

でも、その上に、設計者・施工者・職人のプロとしての職能が加わる(ガイド役ですネ)ことで、お客さまに、見たことのない風景をみせてあげることができるはず。そんな会社になりたい、と思っています。

Aくん、今回は本当に残念でたまらないけれど、でも、ありがとう。ええ建物になりますように!



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